ボクシング問題について 

日本スポーツ仲裁機構
機構長 道垣内 正人


 2003年8月6日に仲裁申立てがあった本件について、最終的な決着がついたとの情報をえました。これは次のような事案です。

  • 2003年8月6日、社団法人日本アマチュアボクシング連盟(以下、「同連盟」とする。)から選手登録抹消(1年間の再登録禁止を含む。)の決定を受けた選手からその決定の取消しを求める仲裁申立てがありました。
  • これに対し、同8日、同連盟から、仲裁には応じない旨の回答がありましたので、仲裁手続は開始しませんでした。
  • JSAAとしては、同連盟が仲裁に応じない理由についての新聞等各社の報道がまちまちであり、その中にはスポーツ界に悪影響を与えるおそれがあるものもあったため、同14日、同連盟に対して質問状(PDF形式)を送付しました。
  • 同30日、同連盟から理由についての回答がありました。その中で、同連盟は、仲裁に応じない理由の一つとして、本件では事実関係に争いがなく、法律判断が中心となるので、裁判官に判断を委ねるべきであると考える旨の記載がありました。
  • そこで、JSAAとしては、9月4日に理事会を開催し、対応を協議し、その結果について記者会見をしました。その要点は、スポーツ仲裁についての理解を深めていただく活動を今後も鋭意続けていくこととともに、この種の紛争は裁判所の取り上げる事件には当たらないのではないかという点について、民事訴訟法の専門家の意見を伺うという点にありました。2003年9月4日の記者会見メモ(PDF形式)

その後の経緯は以下の通りです。

  • 同年9月29日、登録抹消の処分を受けた選手は、違法な登録抹消によりインターハイ等に出場できなかったことによる慰謝料100万円を求める訴えを東京地方裁判所に提起しました。
  • 2006年1月30日、東京地方裁判所は、原告の訴えを棄却する判決を下しました。東京地裁平成18年1月30日判決(判例タイムズ1239号267頁)(PDF形式)この裁判では、原告は競技団体の処分の取消しを直接に求めたわけではなく、 不法行為により慰謝料請求をしたため、裁判所は門前払い(訴え却下)ではなく、本案について判断をして、慰謝料請求を認めないとの判断を示しました。
  • これに対して、原告は、東京高等裁判所に控訴しました。
  • 東京高等裁判所での審理の過程で、2006年12月5日、控訴人・被控訴人の間に和解が成立し、訴えは取り下げられました。

以上の経緯から、ここに次の通り、関係文書を公開します。

  • 2003年9月11日付の青山善充東京大学名誉教授(当時は成蹊大学教授、現在は明治大学教授)の鑑定意見書(PDF形式)

    これは、2003年9月4日の理事会において、スポーツをめぐって競技団体のした登録抹消等の決定に不服を有する選手がその決定の取消しを求める訴えを裁判所に提起した場合、裁判所はその決定の当否を判断することができるか否かについて、民事訴訟法の専門家の意見を伺うこととなったことに従い、青山教授にお願いしてご執筆いただいたものです。上記の通り、本件においては、選手は慰謝料請求という形で提訴しており、この意見書が対象としている訴えの形とは異なります。しかし、それでも、その訴訟にいささかでも影響を与えてはならないとの判断から、JSAAとしては今日まで公表を差し控えて参りました。

  • 2006年12月5日の和解調書

    これは、選手の代理人弁護士の方から頂いたものです。当事者間で、この和解調書を公表することについては了解があります。


このように、本件では、決定について迅速な処理はされず、登録抹消の日から約3年半を経過してようやく決着に至りました。JSAAとしては、今後とも、スポーツ界にスポーツ仲裁の意義についてのご理解を深めて頂くための活動を継続していく所存です。

以上