仲裁判断

仲裁判断(2015年7月21日公開)
仲裁判断の骨子(2015年6月25日公開)


仲裁判断

仲 裁 判 断
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2015-004

申立人         X


被申立人    一般社団法人全日本テコンドー協会


主   文


本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。

1 請求の趣旨にかかる申立てを全て却下する。

2 申立料金54,000円は、申立人の負担とする。



理  由

 

第1 当事者の求めた仲裁判断

 

1 申立人は、以下のとおりの仲裁判断を求めた。

(1) 2015年5月25日に開催された被申立人の平成27年度第1回正会員総会で被申立人が行った、申立人を被申立人の正会員とすることを保留する旨の決定を取り消す。

(2) 被申立人において申立人を被申立人の正会員として認める旨の決定をする。

(3) 被申立人において、被申立人が定めるBブロックからの被申立人の理事候補者として、被申立人の正会員たる申立人の推薦により、申立人自身を選出することを認める旨の決定をする。

(4) 被申立人において、A県テコンドー協会に所属する選手にかかる被申立人の個人会員への登録申請に際して、同選手の住所の不提出を認める旨の決定をする。

2 被申立人は、以下のとおりの仲裁判断を求めた。

(1) 主位的に、申立人の申立てを却下する。

(2) 予備的に、申立人の請求をいずれも棄却する。

(3) いずれの場合も仲裁費用は申立人の負担とする。

 

第2 仲裁手続の経過

 

 別紙に記載のとおり。

 

第3 事案の概要

 

1 当事者


(1)  申立人

 申立人は、特定非営利活動法人A県テコンドー協会(以下、「A県テコンドー協会」という。)の会長であり、被申立人の正会員であったが、2015年5月25日に開催された被申立人の平成27年度第1回総会(以下、「本件総会」という。)の終了時をもって正会員の地位が消滅した。なお、申立人がスポーツ仲裁規則(以下、「規則」という。)第3条第2項に定める「競技者等」に該当するか否かについては、第5において検討する。


2. 本件紛争の概要


 被申立人は、我が国におけるテコンドー競技を統括し、これを代表する団体として、テコンドーに関する事業を行い、普及及び振興を図り、もって国民の心身の健全なる育成に寄与することを目的とする一般社団法人であり、公益財団法人日本オリンピック委員会の加盟団体であって、規則第3条第1項に定める「競技団体」である。


 A県テコンドー協会は、2015年5月頃、被申立人の加盟団体として承認を受けるために、被申立人に対し加盟審査に必要な資料を提出したが、被申立人は、2015年5月8日に行われた平成27年度第1回理事会において、当該提出資料では被申立人の加盟団体規程に掲げる要件を満たしているかどうか疑義のある状態であるとして、A県テコンドー協会の加盟の承認を保留している。

 また、申立人は、2015年5月頃、被申立人の正会員になるために、被申立人に対し正会員選任届を提出した。しかし正会員になるためには加盟団体の推薦が必要であるところ、上記のとおりA県テコンドー協会が加盟団体として認められていない状態であるため、被申立人は、2015年5月8日に行われた平成27年度第1回理事会において、申立人を正会員とする件に関してはその承認を保留し、2015年5月15日付けのA県テコンドー協会宛の書簡でその旨伝えた。被申立人は、同書簡において、A県テコンドー協会に対して会員(個人会員)の登録に必要な書類一式の事務局への早期の提出も求めている。

 しかし、申立人は、被申立人に対して、かかる必要な書類一式を提出せず、本件総会においても申立人を正会員とする件については承認が保留され、その結果、本件総会の終了時をもって申立人の正会員としての地位が消滅した。

 本件は、上記状況において、申立人が、被申立人に対して、申立人を正会員として認めることを保留する旨の本件総会の決定を取り消し、申立人を正会員として認める決定、申立人の推薦により、申立人自身を被申立人の理事候補者として選出することを認める決定、A県テコンドー協会に所属する選手にかかる被申立人の個人会員への登録申請に際して、同選手の住所の不提出を認める決定を求めた事案である(以下、かかる申立人による申立てを「本件申立て」という。)。


3. 本件申立てにかかる当事者の主張


(1)申立人の主張

ア.被申立人は、被申立人の会長に異を唱える各県会長・正会員を誹謗中傷する文書を選手父兄に送付したり、各県の協会から提出された住所を恣意的に利用する等信用できないので、A県テコンドー協会の会員の住所を提出できない。

イ.被申立人の正会員でなければ競技に関する最新情報を得られないため、申立人を正会員にしないのは不当である。

ウ.申立人自身の推薦で、申立人を被申立人の理事として認めるべきである(但し、理由は明らかではない。)。


(2)被申立人の主張

ア.本件申立ては却下されるべきである

①本件申立ての実質は申立人ではなくA県テコンドー協会の被申立人に対する不服であり、申立人は、当事者適格を欠く。

②申立人は、規則第3条第2項に定める「競技者等」に該当しないため、本件申立ては、規則に基づくスポーツ仲裁に該当する紛争にあたらない。

③申立人が仲裁申立書の「5 申立の対象となる決定の特定」において本件申立ての対象としている「会員(個人会員)の登録について」は、被申立人がA県テコンドー協会に対して発出した依頼文書にすぎず、規則第2条第1項に規定する「決定」に該当しない。

④「会員(個人会員)の登録について」は、被申立人がA県テコンドー協会に対して宛てた文書であり、申立人は「決定」を受けた者ではない。


イ.仮に上記アの主張が認められない場合、申立人の請求は棄却されるべきである

① 被申立人の会員となる個人の情報を不提出とすることを認めることは加盟団体について、その認定要件を満たしているか否かを確認できないだけでなく、スポーツ団体として適正な会員管理等を不可能にするものであり、申立人の請求は失当である。

②被申立人は、申立人を正会員とする承認を保留しているだけであり、不当に拒否しているものではない。

③申立人はBブロックからの役員の候補者として推薦されていないため、Bブロックからの理事とすることはできない。


第4 当事者の主張

 

 本件仲裁において当事者間に争いのない事実、当事者双方より提出された証拠及び本件仲裁の全趣旨に基づき、本件スポーツ仲裁パネルが認定する事実関係は以下のとおりである。


1.被申立人は、2012年1月12日付けで、以下の理由で申立人を被申立人の正会員から除名する旨の処分(以下、「本件除名処分1」という。)をした(甲23)。


 被申立人が、申立人に対し、2011年4月28日付けAJTA発総務第11号により1年間の資格停止処分を通知した際に禁止した下記の条項を守らず、また、弁明の機会を再三与えたが、申立人が被申立人に歩み寄らなかったこと。

「1.本協会及び都道府県支部主催の諸行事への参加、出席及び国内テコンドー関係者との接触

 2.(財)日本オリンピック委員会関係者との接触

 3.世界テコンドー連盟、アジアテコンドー連盟主催行事への参加、出席及び関係者との接触」


2.被申立人は、2013年4月16日付けで、以下の理由で申立人を除名する旨の処分(以下、「本件除名処分2」という。)をした(甲21)。


「(1)貴殿は、平成25年1月27日、C協会所属のD選手の父・Eに対し、同選手が貴殿の勧めた進路に進まないことに立腹し、「お前と娘をつぶす」などと連呼して脅迫した。

 (2)貴殿は、F県テコンドー協会のGに対し、同日、同様の事態などに立腹し、「お前をつぶす」と連呼するなどして脅迫した。」


3.申立人は、被申立人に対して、本件除名処分1及び本件除名処分2が無効であること等を主張して、申立人が被申立人の正会員であることの確認を求めて東京地方裁判所に訴えを提起し(平成24年(ワ)第○号損害賠償(正会員の地位確認)請求事件)、2014年4月14日付けで申立人の訴えを認容する判決が言い渡され、また、同控訴審(平成26年(ネ)第●号損害賠償(正会員の地位確認)請求控訴事件)においても、2014年9月24日付けで申立人の訴えが認められる旨の判決が言い渡され、その後、同判決が確定した(甲20)。

4.2014年11月1日に改正された被申立人の定款附則第9項(2015年3月30日改正により、第10項に変更されている。)により、2015年3月31日において被申立人の加盟団体であった団体が引き続き同年4月1日以後に加盟団体となろうとする場合には、同日から2か月以内に被申立人の新定款(2014年11月1日付けで全文改正されたもの)第41条第1項に規定する申請書等を被申立人に提出し、同項の承認を得なければならないものとされた(乙2)。

5.2014年11月1日に改正された被申立人の定款附則第5項及び2015年3月30日に改正された被申立人の定款附則第1項により、2015年4月1日から2か月以内に開催する被申立人の正会員総会の日の前日において被申立人の正会員である者の正会員の資格の有効期間は、当該正会員総会の日までとなった(乙2、7)。

6.A県テコンドー協会は、2015年4月30日頃、被申立人の加盟団体として承認を受けるために、被申立人に対し加盟審査に必要な資料を提出した(以下、「本件加盟申請」という。)(甲34、35、乙4)。

7.A県テコンドー協会は、本件加盟申請と合わせて、2015年5月頃、申立人を被申立人の正会員に選任するよう求めて、被申立人に対し正会員選任届を提出した(以下、「本件選任申請」という。)(乙5)。

8.被申立人は、2015年5月8日に行われた平成27年度第1回理事会において、本件加盟申請に関して、A県テコンドー協会が提出した資料では、被申立人の加盟団体規程(乙1)に掲げる認定要件を満たしていることが確認できないとして、A県テコンドー協会の加盟の承認を留保し、また、本件選任申請に関して、正会員になるためには被申立人の加盟団体の推薦が必要であるところ、A県テコンドー協会が加盟団体として認められていないことを理由として、その承認を保留した。

9.被申立人は、2015年5月15日付け「会員(個人会員)の登録について」と題する書簡にて、A県テコンドー協会に対して、承認保留決定(理事会)の内容を知らせると共に、A県テコンドー協会の加盟審査に必要な30名以上の会員(個人会員)の登録に必要な書類一式の提出を求めたが、申立人は、かかる被申立人の求める書類を提出していない。

10.被申立人は、本件総会において、本件加盟申請及び本件選任申請に関して、上記認定事実8と同様の理由において、いずれも承認を保留した(以下、「本件保留決定」という。)。

11. 申立人は、本件総会に被申立人の正会員として出席したが、本件保留決定によって、正会員としての承認を得られなかったことから、被申立人の2014年11月1日改正定款附則第5項及び2015年3月30日改正定款附則第1項により、本件総会の終了時をもって、被申立人の正会員としての地位が消滅した。


第5 本件スポーツ仲裁パネルの判断


1.仲裁適格の有無


 規則第2条第1項は、「この規則は、スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関が競技者等に対して行った決定(競技中になされる審判の判定は除く。)について、その決定に不服がある競技者等(その決定の間接的な影響を受けるだけの者は除く。)が申立人として、競技団体を被申立人としてする仲裁申立てに適用される。」と規定しており、規則に基づくスポーツ仲裁における仲裁適格を定めている。したがって、かかる規則第2条第1項に定める仲裁適格を欠くスポーツ仲裁の申立ては却下されることになる。

 この点、被申立人は、請求の趣旨(1)から(4)について、主に、申立人が規則に基づくスポーツ仲裁の申立権限者たる「競技者等」(規則第2条第1項本文、第3条第2項。以下、「競技者等」という。)に該当しないこと、又は上記各請求の対象が規則に基づくスポーツ仲裁の対象となるべき被申立人の「決定」(規則第2条第1項本文)に該当しないことを理由として、本件申立ては却下されるべきと主張する。

 そこで、まず、本件申立てにおいて、①申立ての主体に関する仲裁適格の有無、すなわち、申立人が規則に基づくスポーツ仲裁の申立権限を有する「競技者等」に該当するか否か検討し、かかる「競技者等」に該当することが認められた場合に、②申立ての客体に関する仲裁適格、すなわち、請求の趣旨(1)から(4)の対象が規則に基づくスポーツ仲裁の対象となるべき被申立人の「決定」に該当するか否かを検討することとする。


2.「競技者等」該当性


 スポーツ仲裁における申立人の地位は、申立人が求める救済内容に応じて異なり得ることから、申立人の請求の趣旨(求める救済内容)が複数存在する場合においては、申立人が「競技者等」に該当するか否かは、それぞれの請求の趣旨(求める救済内容)との関係において、個別に判断すべきものと解する。

 したがって、以下、請求の趣旨(1)から(4)との関係において、申立人が「競技者等」に該当するか否かを検討する。


(1)請求の趣旨(1)及び(2)について

ア. 請求の趣旨(1)及び(2)は、いずれも、申立人の被申立人における正会員としての地位に関する請求である。そして、本件総会が終了するまでは、申立人が被申立人の正会員であったことは争いのない事実であるから、請求の趣旨(1)及び(2)は、申立人が被申立人の正会員たる地位に基づく請求であると認められる。したがって、請求の趣旨(1)及び(2)については、被申立人の正会員たる申立人が「競技者等」に該当するか否かが問題となる。

イ. この点、「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者」は、「競技者等」から除外されている(規則第3条第2項第3文)。そして、被申立人における正会員は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号。以下、「一般社団法人法」という。)上の社員に該当し(乙2、被申立人の定款(以下、「本件定款」という。)第5条柱書)、一般社団法人法上の社員総会たる本件総会の構成員となり、本件総会において、被申立人の組織、運営、管理等の重要事項について決議をすることができる(乙2、本件定款第16条)。

 したがって、被申立人の正会員が「競技団体の評議員、理事、職員」に準じた「スポーツ競技の運営に携わる者」に該当することは明らかであり、請求の趣旨(1)及び(2)との関係で、被申立人の正会員たる申立人は、「競技者等」には該当しない。

ウ. なお、かかる結論は、規則第3条第2項において「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者」が「競技者等」から明示的に除外された趣旨に照らしても妥当である。すなわち、規則第3条第2項において「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者」が「競技者等」から明示的に除外されたのは、①規則が、いわば上下関係にある者の間で、上位者がした決定により不利益を受ける下位者によって申し立てられることを前提としていること、②競技会への選手選考のような、法律上の争訟に該当せず裁判所では争うことができないと考えられ、仮に争うことができたとしても、競技会までの時間が限られており、裁判所の判断を待っていては求める救済内容を実現できないという実情から、スポーツ仲裁制度を設ける必要があったこと、③他方、団体役員の間での理事会等の決議をめぐる争いは、いわば上下関係にある者の間の紛争ではなく、また、法人の理事会等の決議であれば、決議取消しの訴えを裁判所に提起することが可能であり、そのような争いのためにスポーツ仲裁制度を用意する必然性はないと思われること、を理由とするものであるところ(以上、①から③につき、日本スポーツ仲裁機構2013年8月21日公表に係る『「スポーツ仲裁規則」及び「スポーツ仲裁に関する日本スポーツ仲裁機構の事務体制に関する規程の改正の件」』参照)、本件総会という被申立人の最高意思決定機関の構成員たる正会員と被申立人の関係は、被申立人を上位者、正会員を下位者とする関係にはなく、しかも、請求の趣旨(1)の原因となる本件保留決定については、申立人も正会員として出席した本件総会における決議であるから、そこに上下関係という要素が存在しないことは明白であり、更に、本件保留決定については、社員総会決議取消しの訴え(一般社団法人法第266条第1項)を裁判所に提起することが可能なのである。

エ. 以上より、申立人は、請求の趣旨(1)及び(2)に関して「競技者等」に該当しない。


(2)請求の趣旨(3)について

ア. 請求の趣旨(3)は、被申立人の理事の選出に際しての候補者の推薦方法に関して、下記の被申立人の役員推薦規程(乙3)第2条第1項の定めに従って、又は同規程にかかわらず、被申立人が定めるBブロックからの理事候補者として、被申立人の正会員である申立人自身の推薦により、申立人を選出することを求めるものである。

(役員推薦規程第2条第1項)

「第2条 北海道及び東北、北関東、南関東(東京都を除く。)、北信越、東京都、東海、近畿(大阪府を除く。)、大阪府、中国及び四国並びに九州(以下、この項において「各ブロック」という。)の定款第40条に規定する加盟団体(以下、「加盟団体」という。)は、各ブロックごとにそれぞれ1名を理事候補者として推薦することができる。」

イ. かかる申立人の請求の根拠については明らかではないが、申立人が被申立人の正会員であることが前提とされているところ、被申立人の正会員が、「競技者等」に該当しないことは、前記2(1)のとおりである。したがって、請求の趣旨(3)との関係においても、申立人は「競技者等」に該当しない


(3)請求の趣旨(4)について

ア. 請求の趣旨(4)は、被申立人の会員規程(乙8)において、本件定款に定める被申立人の個人会員となろうとする者が、被申立人への提出を求められている書類に住所を記載することに関して、A県テコンドー協会に所属する選手の個人会員資格申請においては、住所の記載を不要とするよう求めるものである。

 申立人がかかる請求を行うに至ったのは、申立人が代表者を務めるA県テコンドー協会について、被申立人の加盟団体(本件定款第40条)となるための申請を行うにあたり、「3か所以上の参加道場等(当該3か所以上の参加道場等における当法人の会員の合計が30名以上の場合に限る。)を有しているか。」との要件が定められていることから(乙1、被申立人加盟団体規程第3条第2項第3号)、かかる要件を充足するためにA県テコンドー協会に所属する選手を個人会員として登録申請したことに端を発しているものといえる。すなわち、請求の趣旨(4)は、申立人がA県テコンドー協会の代表者として、A県テコンドー協会を被申立人の加盟団体として加盟申請すること(本件加盟申請)に付随する請求といえる。

 したがって、請求の趣旨(4)との関係では、A県テコンドー協会の代表者たる申立人が「競技者等」に該当するか否かが問題となる。

イ. この点、A県テコンドー協会の代表者たる地位が、「競技者等」に該当する者として規則第3条第2項第1文が定める「スポーツ競技における選手、監督、コーチ、チームドクター、トレーナー」のいずれにも該当しないことは明白であるが、「その他の競技支援要員」にも該当しないと解すべきである。なぜなら、同規定の文言及び同規定で列挙されている者がスポーツ競技において果たすべき役割に鑑みれば、「競技者等」とは、競技者を中心として、スポーツ競技自体に自ら又は競技者を通じて関与する者をいうと解すべきであり、A県テコンドー協会の代表者という組織運営者は、かかる「競技者等」に該当しないからである。

ウ. 以上より、申立人は、請求の趣旨(4)との関係においても、「競技者等」に該当しない。


3.小括


 以上のとおり、申立人は、請求の趣旨(1)から(4)のいずれの関係においても、「競技者等」に該当しないことから、これら各請求の対象が規則に基づくスポーツ仲裁の対象となるべき被申立人の「決定」に該当するか否かを検討するまでもなく、本件申立ては、規則第2条第1項が定める仲裁適格を欠いている。

 したがって、申立人の本件申立てはいずれも却下する。


第6 結論


 以上のことから、本件スポーツ仲裁パネルは、申立人の本件申立てを全て却下し、申立費用については申立人が負担すべきものと認め、主文のとおり判断する。


以上

2015年6月25日

スポーツ仲裁パネル

仲裁人 竹之下 義弘 

 仲裁人 西脇 威夫 

仲裁人 千葉 恵介 


仲裁地:東京


(別紙)

仲裁手続の経過

1. 2015年6月3日、申立人は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(以下、「機構」という。)に対し、「仲裁申立書」及び書証(甲第1~28号証)を提出し、本件仲裁を申し立てた。

2. 同月5日、機構は、スポーツ仲裁規則(以下、「規則」という。)第15条第1項に定める確認を行った上、同条項に基づき申立人の仲裁申立てを受理した。

3. 同月12日、申立人は、機構に対し、本件事案の緊急性の疎明を目的とした書面を提出した。

4. 同月15日、機構は、本件事案に緊急性が認められると判断し、規則第50条第1項に基づき緊急仲裁手続へ移行することを通知した。

5. 同月19日、機構は、竹之下義弘、西脇威夫及び千葉恵介に「仲裁人就任のお願い」を送付した。

 同日、竹之下義弘、西脇威夫及び千葉恵介は、仲裁人就任を承諾し、竹之下仲裁人を仲裁人長とする、本件スポーツ仲裁パネルが構成された。

 同日、本件スポーツ仲裁パネルは、審問開催日、審問当日の出席者、証人尋問申請、申立人に対する釈明及び資料提出要請、仲裁人西脇威夫及び千葉恵介の仲裁人就任への異議の有無に関して、「スポーツ仲裁パネル決定(1)」を行った。

6. 同月22日、申立人は、機構に対し、仲裁申立書内「請求の趣旨(求める請求内容)」についての追加書面、「全日本テコンドー協会 定款(改正後)」及び書証(甲第29~35号証)を提出した。

 同日、被申立人は、機構に対し、「答弁書」「証拠説明書」及び書証(乙第1~5号証)を提出した。

7. 同月23日、東京において審問が開催された。

 両当事者から冒頭陳述がなされた後、本件スポーツ仲裁パネルから両当事者に主張内容の確認がなされた。審問期日において、申立人は、機構に対し、書証(甲第36、37号証)を、被申立人は、機構に対し、書証(乙第6、8号証)を提出した。その後、当事者尋問、証人尋問が実施された。また、仲裁パネルから、被申立人は後日に書証(乙第7号証)の提出をすることが確認された。

8. 同月24日、被申立人は、機構に対し、書証(乙第7号証)を提出した。

 本件スポーツ仲裁パネルは、被申立人の書証の提出に伴い、審理を終結した。


以上

 

以上は,仲裁判断の謄本である。

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構

代表理事(機構長) 道垣内 正人



仲裁判断の骨子

仲 裁 判 断 の 骨 子
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構
JSAA-AP-2015-004

申立人         X


被申立人    一般社団法人全日本テコンドー協会


主   文


本件スポーツ仲裁パネルは次のとおり判断する。

1 請求の趣旨にかかる申立てを全て却下する。

2 申立料金54,000円は、申立人の負担とする。


 本件は、緊急仲裁手続であるので、スポーツ仲裁規則(以下「規則」という。)第50条第5項に基づき、以下に理由の骨子を示し、規則第44条に基づく仲裁判断は、後日作成し、申立人及び被申立人に送付する。

 

理由の骨子

1 事案の概要


 申立人は特定非営利活動法人A県テコンドー協会(以下「A県テコンドー協会」という。)の会長であり、被申立人の正会員であった。

 A県テコンドー協会は、平成27年5月頃、被申立人の加盟団体として承認を受けるために、被申立人に対し加盟審査に必要な資料を提出したが、被申立人は、当該提出資料からでは被申立人の加盟団体規程に掲げる要件を満たしているかどうか疑義のある状態であるとして、A県テコンドー協会の加盟を認めていない。

 また、申立人は、平成27年5月頃、被申立人の正会員となるために、被申立人に対し正会員選任届を提出した。しかし、正会員になるためには加盟団体の推薦が必要であるところ、上記のとおりA県テコンドー協会が加盟団体として認められていない状態であるため、2015年5月8日に行われた平成27年度第1回理事会では、申立人を正会員とする件に関してはその承認を保留し、平成27年5月15日付のA県テコンドー協会宛の書簡でその旨伝えた。被申立人は、同書簡において、A県テコンドー協会に対して会員(個人会員)の登録に必要な書類一式の事務局への早期の提出も求めている。

 しかし、申立人は、被申立人から求められた上記書類を提出をせず、2015年5月25日に開催された被申立人の平成27年度第1回正会員総会(以下「本件総会」という。)の終了時をもって正会員の地位を失った。

 そこで、申立人は、正会員の保留を取り消し、正会員として認める決定、Bブロックからの申立人自身の推薦で理事に認める決定及びA県の選手の住所の不提出を認める決定を求めた(以下「本件申立て」という。)。


2 申立人の主張


(1) 被申立人は、被申立人の会長に異を唱える各県会長・正会員を誹謗中傷する文書を選手父兄に送付したり、提出された住所を恣意的に利用する等信用できないので、A県テコンドー協会の会員の住所を提出できない。

(2) 正会員でなければ競技に関する最新情報を得られないため、正会員にしないのは不当である。

(3) 申立人自身の推薦で、申立人を被申立人の理事として認めるべきである(但し、当該主張の理由は明らかではない。)。


3 被申立人の主張


(1) 本件申立ては却下されるべきである。

① 本件申立ての実質は申立人ではなくA県テコンドー協会の被申立人に対する不服であり、申立人は、当事者適格を欠く。

② 申立人は、規則第3条第2項に定める「競技者等」に該当しないため、本件申立ては、規則に基づくスポーツ仲裁に該当する紛争にあたらない。

③ 申立人が仲裁申立書の「5 申立の対象となる決定の特定」において本件申立ての対象としている「会員(個人会員)の登録について」は、被申立人がA県テコンドー協会に対して発出した依頼文書にすぎず、規則第2条第1項に規定する「決定」に該当しない。

④ 「会員(個人会員)の登録について」は、被申立人がA県テコンドー協会に対して宛てた文書であり、申立人は「決定」を受けた者ではない。

(2) 申立人の請求は棄却されるべきである。

① 被申立人の会員となる個人の情報を不提出とすることを認めることは加盟団体について、その認定要件を満たしているか否かを確認できないだけでなく、スポーツ団体として適正な会員管理等を不可能にするものであり、申立人の請求は失当である。

② 被申立人は、申立人を正会員とする承認を保留しているだけであり、不当に拒否しているものではない。

③ 申立人はBブロックからの役員の候補者として推薦されていないため、Bブロックからの理事とすることはできない。


4 本件スポーツ仲裁パネルの判断


 被申立人は、申立人が規則第3条第2項に定める「競技者等」(以下「競技者等」という。)に該当せず、本件は、規則に基づくスポーツ仲裁に該当する紛争には当たらないから、本件申立ては却下されるべきと主張する。

 この点、「競技者等」に該当するか否かは、申立人の請求の趣旨(求める救済内容)(規則第14条第1項第7号)との関係において判断すべきものと解する。本件仲裁における申立人の請求の趣旨(求める救済内容)は、仲裁申立書の記載及び審問期日における申立人の陳述内容その他本件仲裁の全趣旨に照らすと、以下のとおりであると認められる。

① 被申立人が本件総会で行った、申立人を被申立人の正会員とすることを保留する旨の決定(以下「本件保留決定」という。)を取り消すこと(以下「本件請求①」という。)

② 被申立人において、申立人を正会員として認める旨の決定をすること(以下「本件請求②」という。)

③ 被申立人において、被申立人が定めるBブロックからの被申立人の理事候補者として、被申立人の正会員たる申立人の推薦により、申立人自身を選出することを認める旨の決定をすること(以下「本件請求③」という。)

④ 被申立人において、A県テコンドー協会に所属する選手に係る被申立人の個人会員への登録申請に際して、同選手の住所の不提出を認める旨の決定をすること(以下「本件請求④」という。)

 したがって、以下、上記各請求との関係において、申立人が「競技者等」に該当するか否かを検討する。


(1) 本件請求①及び②について

ア 本件請求①及び②は、いずれも、申立人の被申立人における正会員としての地位に関する請求である。そして、本件総会が終了するまでは、申立人が被申立人の正会員であったことは争いのない事実であるから、本件請求①及び②は、申立人が被申立人の正会員たる地位に基づく請求であると認められる。したがって、本件請求①及び②については、被申立人の正会員たる申立人が「競技者等」に該当するか否かが問題となる。

イ この点、「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者」は、「競技者等」から除外されている(規則第3条第2項第3文)。そして、被申立人における正会員は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号。以下「一般社団法人法」という。)上の社員に該当し(乙2、被申立人の定款(以下「本件定款」という。)第5条柱書)、一般社団法人法上の社員総会たる本件総会の構成員となり、本件総会において、被申立人の組織、運営、管理等の重要事項について決議をすることができる(乙2、本件定款第16条)。

 したがって、被申立人の正会員が「競技団体の評議員、理事、職員」に準じた「スポーツ競技の運営に携わる者」に該当することは明らかであり、本件請求①及び②との関係で、被申立人の正会員たる申立人は、「競技者等」には該当しない。

ウ なお、かかる結論は、規則第3条第2項において「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者」が「競技者等」から明示的に除外された趣旨に照らしても妥当である。すなわち、規則第3条第2項において「競技団体の評議員、理事、職員その他のスポーツ競技の運営に携わる者」が「競技者等」から明示的に除外されたのは、①規則が、いわば上下関係にある者の間で、上位者がした決定により不利益を受ける下位者によって申し立てられることを前提としていること、②競技会への選手選考のような、法律上の争訟に該当せず裁判所では争うことができないと考えられ、仮に争うことができたとしても、競技会までの時間が限られており、裁判所の判断を待っていては求める救済内容を実現できないという実情から、スポーツ仲裁制度を設ける必要があったこと、③他方、団体役員の間での理事会等の決議をめぐる争いは、いわば上下関係にある者の間の紛争ではなく、また、法人の理事会等の決議であれば、決議取消しの訴えを裁判所に提起することが可能であり、そのような争いのためにスポーツ仲裁制度を用意する必然性はないと思われること、を理由とするものであるところ(以上、①から③につき、日本スポーツ仲裁機構2013年8月21日公表に係る『「スポーツ仲裁規則」及び「スポーツ仲裁に関する日本スポーツ仲裁機構の事務体制に関する規程の改正の件」』参照)、本件総会という被申立人の最高意思決定機関の構成員たる正会員と被申立人の関係は、被申立人を上位者、正会員を下位者とする関係にはなく、しかも、本件請求①の原因となる本件保留決定については、申立人も正会員として出席した本件総会における決議であるから、そこに上下関係という要素が存在しないことは明白であり、更に、本件保留決定については、社員総会決議取消しの訴え(一般社団法人法第266条第1項)を裁判所に提起することが可能なのである。

エ 以上より、申立人は、本件請求①及び②に関して「競技者等」に該当しないことから、同請求にかかる申立ては却下する。


(2) 本件請求③について

ア 本件請求③は、被申立人の理事の選出に際しての候補者の推薦方法に関して、被申立人の役員推薦規程(乙3)第2条第1項の定めに従って、又は同規程にかかわらず、被申立人が定めるBブロックからの理事候補者として、被申立人の正会員たる申立人の推薦により、申立人自身を選出することを求めるものであり、申立人が被申立人の正会員であることが前提とされている。

イ そして、被申立人の正会員が、「競技者等」に該当しないことは、前記(1)のとおりである。したがって、本件請求③との関係においても、申立人は「競技者等」に該当しないことから、同請求にかかる申立ては却下する。


(3) 本件請求④について

ア 本件請求④は、被申立人の会員規程(乙8)において、本件定款に定める被申立人の個人会員となろうとする者が、被申立人への提出を求められている書類に住所を記載することに関して、A県テコンドー協会に所属する選手の個人会員資格申請においては、住所の記載を不要とするよう求めるものである。

 申立人がかかる請求を行うに至ったのは、申立人が代表者を務めるA県テコンドー協会について、被申立人の加盟団体(本件定款第40条)となるための申請を行うにあたり、「3か所以上の参加道場等(当該3か所以上の参加道場等における当法人の会員の合計が30名以上の場合に限る。)を有しているか。」との要件が定められていることから(乙1、被申立人加盟団体規程第3条第2項第3号)、かかる要件を充足するためにA県テコンドー協会に所属する選手を個人会員として登録しようとしたことに端を発しているものといえる。すなわち、申立人の本件請求④は、申立人がA県テコンドー協会の代表者として、A県テコンドー協会を被申立人の加盟団体として加盟申請することに付随する請求といえる。

 したがって、本件請求④との関係では、A県テコンドー協会の代表者たる申立人が「競技者等」に該当するか否かが問題となる。

イ この点、A県テコンドー協会の代表者たる地位が、「競技者等」に該当する者として規則第3条第2項第1文が定める「スポーツ競技における選手、監督、コーチ、チームドクター、トレーナー」のいずれにも該当しないことは明白であるが、「その他の競技支援要員」にも該当しないと解すべきである。なぜなら、同規定の文言及び同規定で列挙されている者がスポーツ競技において果たすべき役割に鑑みれば、「競技者等」とは、競技者を中心として、スポーツ競技自体に自ら又は競技者を通じて関与する者をいうと解すべきであり、A県テコンドー協会の代表者という組織運営者は、かかる「競技者等」に該当しないからである。

ウ 以上より、申立人は、本件請求④に関しても、「競技者等」に該当しないことから、同請求にかかる申立ては却下する。


5 結論

 以上述べたところから、本件スポーツ仲裁パネルは、主文のとおり判断する。

 

以上

2015年6月25日

スポーツ仲裁パネル

  仲裁人 竹之下 義弘 

仲裁人 西脇 威夫  

仲裁人 千葉 恵介  


仲裁地:東京


 

以上は,仲裁判断の謄本である。

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構

代表理事(機構長) 道垣内 正人


  ※申立人等、個人の氏名、地域名はアルファベットに置き換え、各当事者の住所については削除してあります。


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